労災保険制度とは?給付の条件や種類、申し込み手続きをわかりやすく解説
2023.07.10 医療事務
【医療事務のパイオニアソラスト監修】労災保険は労働者に必須の保険知識です。給付の条件や種類、申し込み手続きについて理解しておきましょう。
この記事では、労災保険制度について給付の条件や種類、申し込み手続き、給付までの流れをわかりやすく解説します。
また、医療事務で労災担当として働いている方、労災レセプト業務に課題がある方、労災事務管理士®を目指している方も、学んでおきたい知識です。
医療事務の幅を広げるためにも労災保険制度について積極的に学びましょう!
労災保険制度とは
労災保険制度とは、労働者が仕事中や通勤中に起きた事故などによるケガや病気、障害または死亡してしまった場合に、保険給付を行う制度です。
正式名称は「労働者災害補償保険」といいます。
よく「労働保険」と混同されることがありますが、労働保険は労災保険と雇用保険を合わせたものを指します。
労災保険制度の目的は以下の2つです。
労災が発生すると、労働者に補償が支給されます。
その原資は労災保険料といって、国に対して企業が支払っている保険料です。
厚生労働省が定める保険料率と企業が労働者に支払う賃金総額によって労災保険料は計算されます。
労災保険の対象者は?
対象者は、すべての労働者です。
雇用形態は正社員だけでなく、契約社員やアルバイト、パート、派遣社員など雇用されている立場の人が対象となります。
年齢制限はなく、未成年者や高齢者も対象です。
事業主(雇用主)は、従業員を1人でも雇っている場合、労災保険に加入する義務があります。
(※農林水産の一部の事業は除く)
※暫定任意適用事業といい、農林水産業など一部の事業では任意加入とされています。
労災保険と健康保険の違い
労災保険は健康保険と比較して、補償が手厚く補償内容の幅が広いことが特徴です。
この2つは根拠となる法律が違い、原因と事由によって適用される範囲が異なります。
フリーランスや個人事業主も加入できる?「特別加入制度」
特別加入制度とは、通常は労災保険の対象外である方でも「労働者と同じ」とみなし、労災保険への特別な加入を許可する制度です。
フリーランス(自営業)や個人事業主は、原則として労働者にあたらず、保護の対象ではありません。
しかし、労働者以外の場合にも「業務の実態」や「災害の発生状況」をみて、保護するにふさわしいとみなされた場合は、フリーランスや個人事業主であっても、一定の要件のもと労災保険に任意加入することが認められています。
◼️特別加入の対象者
- ・中小企業の事業主(経営者)
- ・中小企業の役員
- ・一人親方
- ・個人事業主
- ・農業従事者
- ・特定作業従事者・海外派遣者
参考:労災保険への特別加入
労災保険の「特別加入」の対象が追加
また、以下の特別加入の対象が広がりました。
- ・芸能関係作業従事者
- ・アニメーション制作作業従事者
- ・柔道整復師
- ・創業支援等措置に基づき事業を行う方
- ・自転車を使用して貨物運送事業を行う者(ウーバーイーツの配達員など)
- ・ITフリーランス
- ・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
- ・歯科技工士
参考:労災保険への特別加入
労災の対象災害は?
どんな時に労災保険がおりるのでしょうか?
対象災害は仕事中の「業務災害」と「複数業務要因災害」そして通勤中の「通勤災害」の3種類に分類されます。
参考:複数業務要因災害(厚生労働省)
業務災害
業務災害とは、業務が原因で労働者が負ったケガや病気、障害あるいは死亡のことをいいます。
「業務遂行性」と「業務起因性」の2要素で業務との因果関係が判断されます。
■業務遂行性
「負傷や死亡等が業務中に発生したもの」を業務遂行性といいます。
業務中とは、労働契約に基づき労働者が「事業者の支配・管理下にある状態のこと」です。
■業務起因性
「負傷や死亡等が業務原因で発生したもの」を業務起因性といいます。
■労災に該当しないケース
- ・自然災害による被災
- ・故意に災害を発生させた
- ・個人的な恨み等によって第三者から暴行を受けた
- ・業務中に業務とは無関係な行為をして事故が発生した
複数業務要因災害
複数業務要因災害とは、複数の職場で働く方の業務負荷などを要因とした傷病のことをいいます。対象となる傷病は脳や心臓疾患、精神障害などです。
複業、副業、兼業などをする方が増えてきたことから、2020年に労災に関する法改正が行われ「複数業務要因災害」も対象災害と認められるようになりました。
通勤災害
通勤災害とは労働者が通勤(帰宅)途中に、事故に遭いケガをしたり死亡してしまったたりすることをいいます。
ここでの通勤とは合理的な経路および方法で、以下3種類の移動をすることを指します。
- ・勤務のための自宅と職場との往復
- ・職場からもう1つの職場(本社から支店など)への移動
- ・単身赴任先から自宅への移動
合理的な通勤経路や方法を逸脱した場合や、寄り道、使うべきではない交通機関を使用しての移動などは「通勤」と認められず、そこで遭った事故などは通勤災害と認められません。
労災給付の種類と給付金額の目安
労災保険給付金は8種類あり、傷病や障害の程度により受け取れる給付が異なります。
参考:労災給付の種類(厚生労働省鳥取労働局)
■療養等給付
労働災害が原因の傷病のために、労災病院やその他医療機関で療養する際に受け取れる給付金のことを療養等給付といいます。
■休業等給付
労働災害による療養のため、休業を余儀なくされる場合があります。働けず賃金が受け取れない場合には、生活のために2種類の休業給付金が支給されます。
- 休業4日目から日額「給付基礎日額の60%相当の保険給付」
- 特別支給金として「給付基礎日額の20%の特別支給金」
■障害等給付
労働災害による疾病の治癒後に、障害が残った場合の給付を障害等給付といいます。障害等級第1級から第7級に当てはまる場合に受け取れます。
「障害等年金」と「障害等一時金」の2種類に分かれており、それぞれに該当する条件を紹介します。
【障害等年金(障害等級第1級から第7級)】
●その障害の程度に応じて給付基礎日額の131日分から313日分の年金
●特別給付金として159万円〜342万円までの障害特別支給金が支給される
●算定基礎日額の131日分から313日分の障害特別年金が支給
【障害等一時金(障害等級第8級から第14級)】
●その障害の程度に応じて給付基礎日額の56日分から503日分の一時金
●特別給付金として8万円〜65万円までの障害特別支給金が支給される
●算定基礎日額の56日分から245日分の障害特別年金が支給
■遺族等給付
労働災害が原因で労働者が死亡した場合に、遺族が受け取ることのできる給付を遺族等給付といいます。「遺族等年金」と「遺族等一時金」の2種類あります。
●遺族等年金
遺族のうち、その労働者の収入により生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に支払われる年金のことです。受給権者となる順位があります。
●遺族等一時金
遺族等年金を受け取る遺族がいない場合に、遺族等一時金が支給されます。支給には順位があり、最優先順位の人が支給対象者です。
■葬祭料等(葬祭給付)
労働災害により死亡した労働者の葬祭をするために、給付されます。
●給付額は315,000円に給付基礎日額の30日分を足した金額
●合計金額が60日に満たないときは、給付基礎日額の60日分
■傷病等年金
労働災害による受傷や発症から1年6ヶ月を経過しても、傷病が治癒(症状固定)していない場合や傷病が原因の障害が傷病等級に当てはまる場合に支給される年金を傷病等年金といいます。
●その障害の等級や程度に応じて245日分から313日分の年金
●特別支給金として100万円から114万円までの傷病特別支給金
●傷病特別年金として算定日額の245日分から313日分
■介護等給付
すでに障害等年金または傷病等年金を受給していて、現に介護を受けている方が受給できます。支給額は常時介護と、臨時介護で異なります。
■労災保険二次健康診断給付
労働災害により循環器系の異常所見が出た場合に、労災保険二次健康診断給付が給付されます。
二次健康診断費用のための給付です。
労災が起きてから給付までの対応と流れ
労災が起きてから給付までの対応と流れについて確認しましょう。
参考:労災保険(厚生労働省)
会社へ報告
労災被害を受けたら、まずは会社で上司に報告してください。
労災保険の補償を受けるには労働基準監督署への手続きが必要です。一般的には会社がその手続きをします。
病院で診断
つぎに病院を受診し、診断を受けましょう。
医療機関で受診するときには金額の立て替えが必須です。健康保険が使えないため、10割の実費負担となる点にご注意ください。
一般的な医療機関ではなく、労災病院または労災指定医療機関で受診すると窓口での支払いが不要となります。初診の受付で医療事務の方に経緯を説明しましょう。
労災給付の種類に応じた請求書を入手
厚生労働省のホームページまたは労働基準監督署から請求書を入手しましょう。
補償の種類によって申請書が異なるため、所定の様式の請求書を作成する必要があります。
請求書に記入する
請求書類は被災者本人が記入し、提出することが原則です。死亡事故の場合は遺族となります。
作成にあたり、災害の原因及びその発生状況や負傷または発病の年月日などの項目については、会社の証明を受けてから申請する必要があるため、事業主証明欄は会社が記入します。
申請書類には医療機関名、傷病名、事業主署名などの項目があります。請求書のほかには災害の証拠や補償の種類に応じて、添付書類が必要です。
労働基準監督署へ労災保険給付の申請をする
申請書類は、基本的に所轄の労働基準監督署長宛てに提出します。
申請方法や、給付内容に不服がある場合の申し立て方法について説明します。
■申請方法
●労働基準監督署の窓口で提出
●郵送にて提出
■病院宛てに提出するのはどんなとき?
労働基準監督署ではなく、病院に請求書を提出するケースもあります。
●療養補償給付の申請書(労災病院や労災指定病院で治療を受けたとき)
●受診する病院の変更届 など
■給付内容に不服がある場合
給付の決定に関して不服がある場合には、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行います。それを不服申し立てといいます。
ここで審査請求を行う労働者災害補償保険審査官は、給付決定を行なった労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の審査官のことをさします。
【手続き方法】
労働基準監督署または都道府県労働局労災補償課に問い合わせて確認しましょう。
【請求期限】
審査請求には期限があります。
労災保険給付の決定を知った日の翌日から起算して3ヶ月以内に請求する必要があります。
参考:労災保険審査請求制度(厚生労働省)
まとめ:労災保険のしくみを知って労災請求事務に役立てよう
労災保険とは、業務中や通勤中に労働者がケガや病気などにかかった場合、または死亡してしまった場合に、労働者やその遺族に対して国が保険給付を行う制度です。
労災保険がどのような制度なのかを知っておくことで、万が一の時に冷静に動けます。
また、労災保険請求事務に関わっている方や医療事務からステップアップを目指す方で、労災請求についての知識を深めたい方は、ソラストの労災請求事務講座(教材)がおすすめです!
労災保険は複数の補償があり、請求に必要な書類などそれぞれ異なります。
労災保険の請求事務は医療保険請求とは異なる独自のルールがあるため、制度を紐解いて解説されたテキストなどを使いしくみの理解を深めましょう。\
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