ボディメカニクスとは?介護の身体への負担を減らす原理やメリットについて解説
2023.06.19 介護事務
その他
【医療事務のパイオニアソラスト監修】介護をしていると多くの人が悩まされる腰痛問題があります。特に高齢者介護などの社会福祉施設での腰痛発生件数は大幅に増加しており、その割合は80%にものぼるといわれています。
そんな深刻な腰痛問題に腰痛予防対策として取り入れたいのがボディメカニクスです。
この記事では介護士や要介護者の双方にメリットがあるボディメカニクスについて解説します。
ボディメカニクスの原則や介護の身体への負担を減らす原理やメリットについて紹介しますので、ぜひ明日からの介護に取り入れましょう!
介護の負担を減らすボディメカニクスとは
ボディメカニクスとは、最小限の力で介護が行える介助技術のことをいいます。
人間の関節や筋肉・骨の動きなど、力学的観点から考えられており、介護を行う人もされる人もどちらの身体への負担を減らすことのできる技術です。
介護に携わる人には必須の知識となっています。
これまで行政は腰痛予防対策を推進し、「職場における腰痛予防対策指針」を発表しました。それは一般的な予防策や、特に腰痛が多発する介護作業に対する対策、体操などを提案しています。しかし、職場の腰痛は依然として大きな課題として残っているのが現状です。
特に腰に負担がかかる介護作業では、発生する疾病の80%が腰痛であり、今後の高齢化進行に伴い介護労働者や腰痛が増えることが予想されます。
その問題を解決するための一つの予防策として「ボディメカニクス」があげられます。
参考:介護業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ|厚生労働省
ボディメカニクスの原則9つ
ボディメカニクスには、厚生労働省が発表している9つの原則があります。
それぞれについて解説していきます。
参考:介護キャリアアップ応援プログラム|厚生労働省
介助者の支持基底面を広くする
支持基底面とは、体重を支えている足と床が接している部分の面積を指します。
図のように、介助者が足幅を前後または左右に広くとることで、支持基底面が広くなり、立ったときの安定性を高めることができます。
介助者の重心を低くする
足幅を広くとるのと同時に、介助者の重心を低くすることでより姿勢が安定します。
このとき、腰から曲げるのではなく膝から曲げて重心を低くすると腰への負担が軽減されます。
介助者と要介護者の身体をできるかぎり近づける
要介護者の移動のときには、介助者と要介護者の身体をできるかぎり近づけましょう。
身体が密着することでお互いの重心が近づき、最小限の力で動かすことができます。
てこの原理を活用する
体勢を変えるときなどは「てこの原理」を活用します。支点・力点・作用点を意識することで身体を楽に動かすことができます。
例えば、要介護者が横になっている体勢から起き上がった体勢にするときは、頭や腕からではなく、要介護者の臀部(お尻)を支点にするとスッと起き上がることができます。
大きな筋群を使う
大きな筋群とは、大胸筋・広背筋・大腿四頭筋・腹直筋など、大きな力を出せる筋肉のことをいいます。
つい腕力に頼りがちですが、背中や足腰の大きな筋肉を意識して使うようにしましょう。
介助者は身体をねじらない
介助者が身体をねじると、重心が不安定になり力が入りづらくなってしまいます。
さらに、腰に負担がかかって腰痛の原因にもなるので、足先を動かしたい方向に向けてから動かすようにしましょう。
水平に移動する
ベッド上など移動するときはなるべく身体を持ち上げるのではなく、水平に滑らせるように動かすと小さな力で簡単に移動することができます。
要介護者の身体をコンパクトにまとめる
要介護者に腕や膝を曲げてもらい身体をできるかぎりコンパクトにまとめてもらえると、力が分散せずに摩擦が減って介助がしやすくなります。
ベクトルの法則を用いる
ベクトルの法則を利用し、要介護者が立ち上がるときに介助者がいる方に傾いてもらうことで、要介護者自身の上に向かって立ち上がる力を最大限に使用して、介助者の負担を最小限に抑えることができます。
ボディメカニクスはこんな時に役立つ!
ベッドから車いすに移動するとき、入浴介助、食事介助、着替え介助、排泄介助など、介護のあらゆる場面で要介護者を支える必要があります。
ここからはボディメカニクスが役立つ場面を紹介します。
要介護者が立つとき
要介護者が立つときに、介助者が身体の重心を下げて密着させることで重心が安定します。特に排泄介助や入浴介助のときなどは、ボディメカニクスを利用することで安全に介助を行うことができます。
手すりなどがあるとより安全で介助者の負担も軽くなるでしょう。
要介護者が座るとき
要介護者が座るときにも立つときと同じく身体を密着させて重心を一緒に下げます。
座る姿勢が悪いと椅子やベッドから転倒したり、食事介助のときに食べ物の誤嚥が起きてしまったりすることがあります。
ボディメカニクスを利用することで、介助者だけでなく要介護者も無理な姿勢になる可能性が低くなります。
要介護者が歩くとき
要介護者が歩く時には介助者がしっかりと寄り添うことで重心を安定させることができます。
要介護者の動きに合わせてゆっくりとバランスを取りながら行います。
要介護者をベッドから起こすとき
ベッドから起こす介助は腰痛に繋がりやすいといわれています。
ここでもボディメカニクスを使って、てこの原理や要介護者の身体をコンパクトにまとめることで小さな力で動かすことができます。
要介護者が寝ている向きを変えるとき
ベッドで要介護者が寝ている向きを変えるときにも、身体を小さくまとめてもらうことで体位変換を楽に行うことができるようになります。
ボディメカニクスを行うコツや注意点
ボディメカニクスでは、要介護者と呼吸を合わせて動作を行うのがコツです。
そのため、「今から起き上がりますよ」や「これから私の方を向いてください」などといった丁寧な声かけを行うようにしましょう。
また、その都度要介護者の様子をうかがったり、痛みがないか確認したりするとより安全に介助が行えるでしょう。
ボディメカニクスのメリット
ここからはボディメカニクスのメリットを解説します。
介助者の身体への負担(腰痛)を減らす
厚生労働省の発表によると、高齢者介護などの腰痛発生件数が大幅に増加しているといわれています。ボディメカニクスを利用することによって、介助者の身体への負担を減らすことができます。
少ない力で効率的に介護ができる
一部の筋肉ではなく全身を使って介護を行うため、女性でも少ない力で効率的に介護が行えます。
身体を痛めて介護の仕事をやめてしまう人も多いですが、ボディメカニクスで自分の身体を効率よく使うことで長く従事できます。
要介護者の身体への負担を減らす
ボディメカニクスでは要介護者の力も借りて協力しながら介護を行うため、スムーズな介護ができます。
要介護者の身体への負担も減り、コミュニケーションを取り合うことで信頼関係も深まるでしょう。
ボディメカニクスはどこで学べる?研修や講座はあるの?
ボディメカニクスは、介護講座のスクールや介護の基礎を学ぶことができる資格である初任者研修の中で学ぶことができます。
初任者研修についての詳しい内容はこちらの記事をチェックしてみてください!
あわせて読みたい記事:介護職員初任者研修とは?資格取得の方法やメリットについて解説
まとめ:ボディメカニクスは介護の基本!双方の身体への負担を減らすためにしっかりと学ぼう
ボディメカニクスは身体を使う介護の職場では基本の知識です。
介助者・要介護者、双方の身体の負担を減らすためにもしっかりと学び、安心安全に長く介護の仕事ができるようにしましょう。