
接遇についてはいろいろな経験がありますが、「相手の立場に寄り添うという」観点であれば
私が大学病院でマネージャーとして勤務していた時のエピソードが印象に残っています。
あるとき、障害年金の手続きで患者さまからクレームを受けました。
病院の不手際で、事務手続きなどの病院の遅延があり、その方が障害年金をもらう時期がずれてしまったというクレームでした。
患者さまは「それでは生活ができなくて困るじゃないか!」「別になりたくてこうなっているわけではないんだぞ!」と声を上げられていました。
事務手続きには締切がありますから、やはりどうにもならないわけなのですが、私に何ができるかなと考えました。
厚生年金事務所に話をして、私も大急ぎで走って行って「こういう事情があるんだけれど、なんとか認めてもらえませんでしょうか」とお伝えしました。いろいろやりとりをして、結果的に、正規の月から支給ができることになりました。
このときは、患者さまに寄り添った対応をしようという強い想いがありました。大きな病院で考えれば、一日に対応する何百人、何千人のうちの一人と考えてしまいがちですが、当事者の患者さまにとっては人生を左右するたったひとつの出来事だと捉えていたのです。
この対応のあと、病院からは褒められた上で、ものすごく怒られたのです。

なぜ怒られたかというと、「この対応はみんながみんなできないだろう?
それがあたりまえになってしまったら、いろんなことが成り立つのか?」と上司から指摘されました。
私は、全くその通りだと思いました。
病院には常に多くの方が患者さまやそのご家族として来られていて、色々なことがうまく進むようにルールがあり、それらが的確に正しく進むようになっています。一方でその時の私は、とにかく相手の立場に立って、私にできることをしようと考えた結果の行動でした。病院も上司も、その状況は知っていて、その上で褒めてくれて、そして叱ってくれたのです。
あのときの私は「確かにこれは困るよな・・・。自分だったら納得いかない・・・」と、徹底して相手の立場・気持ちに寄り添おうと考え、行動を起こしました。
医療機関の「接遇」は、簡単ではありません。難しいです。「あの人は良くて、私はダメなんですか?」とならないよう、公平であることも欠かせません。だからこそ怒られたという側面もあります。
私がマネージャーに就任することによって、変化は起こせたかなと感じています。それまではなにか問題があるとすぐに医事課長が呼ばれるという状態でしたが、自分なりのやり方で患者さまが納得して着地するということができるようにいちスタッフとして、そしてマネージャーとして向き合ってきました。
医療機関の接遇は難しいし答えは一つではありません。
だからこそ診療報酬の仕事と接遇が両輪となって、その病院だけでなく、隣の病院、地域の病院へと良さが広がっていくものだと信じています。